「ハンドピースの使い回し」報道に思う

少し前に、レガシーメディアで「ハンドピースの使い回し」報道があったようです

まず、内容云々よりこのレガシーメディアのタイトルのつけ方に『悪意』の匂いを感じました


「使い回し」


という表現は不適切です


ハンドピースは患者さんごとディスポーザブルや新品を使いわないので、「使い回し」が基本です


「使い回し」が問題ではなく
「使い回し」過程での感染対策に問題があるということです


なので、このタイトルは精確さを明らかに欠いています

そこに医療を悪者にしたいレガシーメディアの『悪意』の匂いを感じ取ってしまいました



患者さんからすると「感染対策不足は誠にけしからん」ことでしょうが
同様の思いを抱く歯科医師も実は多いのです

感染対策にはコストがかかります


高い感染対策=高コスト
低い感染対策=低コスト


けしからんと歯科医療者に正論かませば溜飲は下がるでしょうが
根性論だけでは解決できないということもまた事実です

ガイドラインがあっても、赤字になったら歯科医院は経営できません
そういうジレンマの中で日々の診療をしている歯科医師は多いです
(基本的に歯科医師の大半は患者さんを治したいと思って日々診療しています)


患者さんが欧米並みのコストさえ是認できれば、感染対策問題はすぐに解決です
自費治療に力を入れている歯科医院は、感染対策もしっかりしていることが多く
世界水準と同レベルであり、すでに問題ですらありません

治療費の中に感染対策のコストもしっかり入っているためです
(当院の感染対策は世界基準で行っています)

問題は、保険診療の場合です
保険診療は診療対価が決められており、医療コストを自由に決めることができません
(日本の保険制度は、資本主義の中の完成された社会主義と言われる所以です)

歯科は医科よりも滅菌等のコストがかかるにもかかわらず
医科よりも診療報酬が安く設定されているという事実をご存知でしょうか?
(政治力と言われています)

なので、歯科医師の中には

『これだけの報酬(対価)しかくれないなら、(国や厚生労働省は)この程度でいいと言ってる』


と考える歯科医師がいることも事実ですし
国や厚生労働省もその程度で良い思っているから診療報酬を抑えている側面は当然あります
(「380円しか払わないけど、A5ランクの牛丼出せ!」とは言わないですよね?)

保険診療問題は、いくらメディアで叩いたところで、歯科医師の個人的努力だけでは解決不能です
保険診療でもなんとか〜と思う人は、国や厚生労働省に是非一緒に働きかけましょう!
コスト面さえクリアできればちゃんとしたいと思う歯科医師も少なくありません
また、保険料も今の何十倍も負担増になるという覚悟も同時に必要ですが…



ちなみに、『欧米並みのコスト』というのは、歯の治療に数万〜数十万ということです
それだけ支払って、ちゃんと感染対策していなかった時に初めて

「感染対策不足は誠にけしからん」


と言えるのではないでしょうか?

「お金は払いたくないけど、ちゃんとした医療を受けたい」はファンタジーです



最後に、『保険診療だって誰かが税金で支払っている』ということを忘れてはいけません
どういう形態を取るにしても、医療にはコストがかかるということはまぎれもない事実です
現在よりも徹底した医療を望むのであれば、コストの問題は避けて通れません

低コスト=低品質の医療
高コスト=高品質の医療

最終的な問いは、われわれ(患者さん)はどちらを望むのかということに尽きます


p.s.
学生時代にバイトしていた歯科医院のことを久しぶりに思い出しました
タービンにはバーがずっと1本付いていてそれをアルコールで清拭して
17時〜20時の3時間で30名ほどそれで治療していました
全ての治療をその1本のバーで行うので、プロゴルファー猿みたいだなと思っていました
根管治療のファイルも1つを清拭して治療していました

これが、20年と少し前の日本@東京の現実です

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