「ちゃんとした歯科治療」とは(長文です)

一生涯『噛める』ということ

一般の方が日々生活において生きるために考えなければならないこと、
優先しなければならないことが山ほどある中で、
歯や口のことについてどれくらいの割合で考えているのでしょう?

ここは歯科医院の個人的なブログなので、
今日はとことん歯や口のことについて熟考していきたいと思います


少なくとも、このようなブログを読むような人は、
歯科治療に対するリテラシーを高める素養があると思います
(ネットの情報にだけ踊らされてはダメですけど)


大抵の人は「ちゃんとした治療」を受けたいとか、「いい治療」を受けたいと思っています
(いい治療を受けたくないと本気で思うのは偏屈者であり、少数派です)


ですが、この「ちゃんと」とか「いい」というのが曲者です
なぜなら、人によって「ちゃんと」と「いい」の定義が異なるからです
(だから、みなさんこんなに多いのに歯科医院選びに難儀してるんですよね?)

例えると、
Aさん「家から近いし、治療時間も短いし、治療も早く終わる、治療費も安くていい」
Bさん「家から遠いが、よく説明してくれて、時間をかけて丁寧に治療してくれる」

または、
Aさん「患者を番号で呼び出さないでほしい、温かみがないじゃないか」
Bさん「患者を名前で呼び出さないでほしい、プライバシーを尊重して欲しい」

AさんとBさんで「ちゃんと」とか「いい」がすでに違っていますよね
これはAさんとBさんの『価値観』が違うから生じることです

他人からいいと聞いて行ってみたけど…
これは価値観のズレから生じている場合がほとんどです


なので、自分に合った歯科医院を迷わずに選ぶ上で大事なことは、

自分の『価値観』がどこにあるのかを考える必要があります


その上で、まず患者さん自身が決めなければならないことが一つあります

一生涯『噛める』ことを望むか否か
(言い換えると数年先ではなく、20~30年先を見据えた治療を望むか)


では、質問です

  1. 歯が残らなくても、痛みさえ取れればいい
  2. その時(現在)〜数年間嚙めればいい
  3. 後に大きな問題になってもそれはその時考えればいい
  4. 治療時間や治療回数は短いほうがいい
  5. とにかく安いほうがいい
  6. 治療の説明なんて聞くのも面倒だ、自分で決めるなんて責任は負いたくない

これらに多くが当てはまる人は、何も考える必要がありません
現在の日本の歯科医療の中心である、保険診療とマッチングしています
治療内容はどこの歯科医院で受けてもさほど差がありません
あとは、「家から通いやすい」とか「スタッフが美人で感じがいい」とか
「診療時間が長い」とか付随的要素で選んで問題ないと思います


保険診療には様々な制限があり、できること、できないことがあります
その制限のなかで治療を選択せざるを得ません
全てがルールで決まっているため、日本全国どこで受けても同じ治療行為が受けられます
さらに、医療行為には結果を保証する義務がありません(悪質なケースを除く)
治療が失敗しても、抜歯して入れ歯やブリッジに移行するだけです

もちろん、保険診療における治療のルールが一概に悪い訳ではありません
このルールは、多くの人が抱える歯科疾患に対し、それなりの医学的根拠に基づいて作られました
保険治療で十分対応できることもあるのも事実です

保険診療の主軸は「除痛」と「一時的な機能回復」です
とりあえずの痛みを取り除き、とりあえず以前のような生活が送れることを目指した治療です

注意していただきたいのは、『歯を長く持たせよう』、『根本的な治療をしよう』
という価値観・視点は残念ですがありません

「悪くなったら、またハイシャに行けばいいよ」

風邪をひいて、病院にかかる感覚と同じようなものでしょうか
これは、過去の歯科医師と患者間に共通認識としてあったと記憶しています
(そして今でも根強く残っていると思います)
しかし、風邪は完治しますが、歯に完治はありません
(すでに健康な歯質は失われています)

歯の問題は、根本的に解決しない限り問題を先送りにしているだけで、
いつかそのツケを必ず払うことになります

自身の口の中がいつの間にか大きな問題を抱えていることに気づいた時、
ことの重大さ、歯科医療の直面している問題の大きさを実感します


歯の治療は基本的に「削って、詰める or かぶせる」です

健康な歯は治療のたびに薄くなり、最終的には割れて抜歯となります

歯は平均2〜3回治療すると抜歯に至ると言われています

なので、歯を長持ちさせたければ

まず、『予防(生活習慣の改善、歯並びや噛み合わせの治療)』が重要です
(虫歯や歯周病にならなければ、そもそも治療が必要ありません)
それでも病気になってしまうので、治療が必要になった場合、

『次に治療が必要になるまでの時間をなるべく稼げるような治療』を受けることです
そして、予防を継続してください

5年しかもたない治療では、10〜15年で抜歯になります
15年もつ治療なら30〜45年で抜歯になります


歯科医師によっても「ちゃんと」や「いい」の価値観や基準が違います
拡大鏡やマイクロスコープを用いる歯科医師とそうでない歯科医師では
見えている世界が違うので、判断基準も当然違います

安く治療することこそが患者さんのためで、是と考える歯科医師もいますし、
歯を長持ちさせる治療にプライオリティーの重きを置く歯科医師もいます

地域差というものもあります

一生涯『噛める』、歯が長持ちする治療を受けたい方へ

では、どうすればいいのでしょうか?

本当の意味で優秀な歯科医師に相談してください

優秀な歯科医師はどのように判断したらいいのでしょう?

優秀な歯科医師は、患者さんの抱えている問題や希望を的確に把握し、
正確な診査・診断が行え、その結果及び治療方針を患者さんにわかりやすく説明できます

時間や費用がかかるような治療であれば、
治療を始める前に、治療の利点・欠点、治療期間、治療予後、リスク、費用などを
じっくり説明してくれて、決して治療を急かすこともありません

セカンドオピニオンも推奨していることが多いです

医学的にわからないことはわからないと素直に説明してくれます

そして、最終的な患者さんの選択を尊重します
治療に同意したら、その先の結果には患者さん自身の選択責任が伴います

治療は経験や勘ではなく科学的・医学的根拠に基づいておこなわれます


歯を長持ちさせる治療の大半は保険外となることが多いというのは真理です

その理由も多くの患者さんが誤解されているのですが、

本質は、使用する「材料」の違いではありません
(保険のルール的にはそう定義されていますし、無論、保険外の材料も使いますが)

銀歯だから保険で白い歯だから保険外

ではないのです

それは『診療のスタイル(治療時間や手間)』によるところが大部分です

「レストランの食事」に例えると、
美味しい料理を作るには、『いい食材(高価)』を使うことは必須ですが、
料理人がその『技術と時間(手間)』をかけなければ美味しい料理になりません
美味しい食事にはレストランの雰囲気(内装、食器、スタッフの応対)も大事です

いい食材を使っても、テキトーに料理したら本当に美味しい料理はできません

歯科で言う「白い歯」というのは、料理での「いい食材」に過ぎません

「オーダーメイド服の仕立て」に例えると、
体にフィットしたいい服を作るには、『いい生地(高価)』を使うことは必須ですが、
仕立て人がその「技術と時間(手間)』をかけなければフィットした服は作れません

歯科で言う「白い歯」というのは、仕立てでの「いい生地」に過ぎません

体にフィットした服を作るには、たくさんの部位を採寸したり、
仮縫いして何度も試着する時間(手間)をかける必要があるのです


歯科でも『いい材料(高価)』を使うことはお金さえ出せば誰でもできるので、
使うこと自体はそう難しいことではありません

白い歯≠いい治療

ちゃんとしたいい治療には大抵時間(手間)がかかる


と考えて大方は差し支えないと思います

『治療に手間(時間)をかけているか?』


結論として、優秀な歯科医師は患者さんが自分自身で見出すしかありません
見つけるためのポイントやヒントは前述した通りです

すでに、治療を受けてしまった方は、過去は変えられませんが、
これまでを総括しなければ、今後も変わることはないでしょう

これから治療を受ける方は、自身の未来を選択可能です
本質を見極めてから治療に望まれるのが良いかと思います

一人でも多くの患者さんが優秀な歯科医師と出会え、正道を歩まれることを願います

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