1本の根管治療が3本の歯を救った!?

初診時のデンタル写真
初診時のレントゲン写真

患者:37歳、女性

主訴:顔の右側から側頭部にかけての頭痛、右上の奥歯の痛み

経過:右の奥歯の神経の治療を小学生の頃に行い、最近になって腫れと痛みが出現
   近所の歯科医院で治療するも、歯の痛みや顔面・頭痛は治らず
   大きな病院の歯科口腔外科を紹介され受診
   奥歯3本の抜歯が必要と言われた

奥から2つ目の歯は治療途中、奥3本は全て揺れており、原因歯の特定は難しい状況でした
奥の2本は神経のテストをしても反応はありませんでした

歯性上顎洞炎を併発している可能性や、非歯原性歯痛の可能性も否定できません
またこの患者さんは歯科治療恐怖があるため、
日によっては診察台に座れないこともありました
(過去の歯の治療が怖くて痛かったと本人談)

患者さんは、とにかくなるべく歯を抜きたいくないとのことで、
原因として一番疑われる奥から2つ目の根管治療からスタートすることにしました


初回治療時
治療開始時の歯の状態

何故、治りにくくなるのにオープンにするのでしょうかねぇ〜
隔壁もなく、標準治療された感じはありません


マイクロエンド
世界基準の歯内療法のルールに準じた根管治療を行った

マイクロスコープを用い、虫歯除去、破折診断、レジンにより隔壁製作
ラバーダム 、コーキング、消毒してマイクロエンドを開始

繰り返す根管治療により歯の中がすでにゴリゴリ削られていて、
口蓋根は根の先の形が前の治療によりすでに破壊されていました(トホホ)
XP-endo Finisherや超音波の器具などを用いながら、
根管内を機械化学的に徹底洗浄しました

治療:90分×2回

ゴリゴリ削れば良くなるわけではないことをもっと多くの先生に知ってほしい…

過剰に歯を削っても治るわけではありません(機械的拡大の限界
歯を削れば、確実に歯は割れやすくなります(破折感受性が高まる


根管充填(MTA)根充時デンタル写真
細菌減少のルールに則った治療を行い、MTAセメントにて根管充填

治療の顛末

最終修復物セット時
最終修復物セット時レントゲン写真

右上の奥歯の痛み、顔の右側から側頭部にかけての頭痛消失
奥歯3本の揺れは消失
一番奥の歯の神経の反応、再出現!(神経生きてる)



支台築造して仮歯にし、3ヶ月経過観察、
根尖の黒い影の減少と、症状がないことを確認し被せ物をしています


結果論ですが、1本の根管治療をしたのみで、全ての痛みは消失し、
歯は3本とも抜歯を回避できました

口腔外科の先生の治療方針が間違っている訳ではありません
症状を無くすには、抜歯は最も確実な治療法です(歯は無くなりますが)

診断は一緒でも、治療方針は先生と患者さんの数だけ存在します

この症例から得られた知見

過去の歯の治療によって新たな病気が生まれました
その新たな病気に患者さんは苦慮する結果になりました
ある意味、医原性疾患といっても良いかもしれません

医療にif(もしも)は禁忌ですが、
初回治療をきっちりと行えていれば、そもそもこうはならなかった
という治療者の思いは当然あります

再治療は初回治療よりも格段に難しくなります
患者さんも治療の成功りは極めて低い中での治療への挑戦でした
治療を決断した患者さんがあっての結果でもあります

この症例のようにならないよう、患者さんにできることは、
もし「神経を取ります」となったら
初回の治療をルールを守って治療してもらうことだと思います

Tag: 治療